2.4 幾何モデリングで扱う座標系の種類

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 幾何モデリングで立体図形を作り、それをコンピュータグラフィックスで透視図を描くまでの一連の処理には、さまざまな座標系が使われます。一つの座標系から別の座標系に変わるときに座標変換が行われます。どのような座標系が扱われるかを概観しておくことは、幾何モデリングを理解する上でも必要です。

(1) まず、3次元の仮想世界があって、そこに立体図形の幾何モデルを作るとします。その世界に、3次元の世界座標系(WC)を考えます。座標軸の記号は、(x、y、z)で表すのが普通です。

(2) この世界の中にいくつかの立体図形を扱うとして、各立体図形相互の相対的な位置関係を考える必要があるとします。このとき、各立体図形に固有の座標系を持たせるのが便利です。これが、世界座標の中で定義する局所座標系(LC)です。立体図形が多面体であるとして、その面に図形を描くとすると、この面に平面的な座標系も必要になります。これは局所座標系の中で、さらに別の局所座標系を入れ子で定義することになります。

(3) 次に、この立体図形を仮想のカメラで撮影するとします。カメラの位置と向きとを世界座標系の中で定義しなければなりません。カメラ本体も立体図形ですので、カメラに局所座標系を持たせますが、これをカメラ座標系(CC: camera coordinate system)と呼びます。カメラは人の眼を代表させ、レンズの中心が視点となりますので、視点座標系(VC: View Coordinate System)とも言います。どの範囲の世界をカメラの視野に収めるかを決めるため、カメラのファインダのような矩形の覗き窓(ウインドウ、window)を考えます。この決め方は、立体図形の透視図を作るときと、平面図形をある縮小比率で撮影するときとで、定義方法が少し違います。

(4) カメラで写真を撮ることは、仮想のフィルムに画像データを取り込むことと考えます。このフィルム面が投影面です。光学的なカメラではフィルム面が対象物に対してレンズ(視点)の反対側に位置しますが、透視の考え方に沿うように、視点の前方に置いたガラスのような透視投影面で考えます。投影面は世界座標の中で3次元の局所座標系を持たせます。これをUVN座標系と呼ぶこともあります。投影面座標系は、そのうちの(U、V)座標が使われ、この座標で画像データを考えます。投影面には物理的な大きさ(枠)があり、この枠の中だけで画像データを考えます。

(5) 次に、上のフィルムを使って作画装置にプリントすることを考えます。作画装置とは、コンピュータのモニター画面、プロッタなどの作図装置、プリンタなどが対象です。これらの作画装置にも枠があり、そこに装置固有の2次元装置座標系(DC: Device Coordinate System)があります。

(6) 作画はこの作画領域全部を使うのではなく、部分的な枠を作って、その領域にプリントを貼り込みます。この領域をビューポート(viewport)と言い、そこにビューポート座標系を考えます。コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一種であるWindowsでは、コンピュータ・グラフィックスの用語でのviewportのことをwindowと呼んでいますので混乱します。

平面図形を作画したいときには、原理的に立体図形の作画のときと同じように(1)から(6)までの座標系を考えますが、定義の方法が少し変わります。

(1') まず、世界座標が2次元の世界座標になります。これを、3次元空間に縦に置いた平面的な面と考える方が後の処理の説明に便利になります。

(2') 独立した平面図形にも局所座標系を考えることができます。これを使って図形の拡大・縮小・回転・変形・裏返し、などと同時に、3次元的に奥行きのデータを持たせ、二つの図形のどちらを手前側で見せるか、などの干渉処理を行います。

(3') 平面図形の画像データのどの範囲を視野に収めるかの矩形領域を指定することがウインドウの定義になります。この定義にはカメラの位置を決めることと、拡大・縮小などのカメラ処理を施すことが、暗黙のうちに考えられています。

(4') フィルムに取り込まれる画像データを表現する座標系は(4)と同じです。これ以降の座標系の考え方も同じです。ただし、ここで得られた画像データは、再び(2')の図形データとして図形処理の対象として使うことができます。コンピュータの画面に複数のウインドウを開いて種々の表示方法をさせることも、この(2')からの処理を行っていることになります。

 平面図形をコンピュータのディスプレイ画面に描くとき、最も単純な考え方は、紙に描く図形をイメージしたそのままの寸法でコンピュータの画面に表示され、また、その寸法でプリントが得られることです。この時は、2次元世界座標系(1')、投影面の座標系(4)、作画装置座標系(5)、がすべて同じです。さらに、ウインドウ(3')、投影面(4)、作画装置(5)、ビューポート(6)がすべて同じ寸法枠になります。コンピュータのディスプレイをそのまま作画の作業領域にし、それがほぼ原寸でプリントされる、ということをWYSIWYG (What You See Is What You Get)と呼ぶことがあります。この処理機能を満たすためには、内部的に実寸法を踏まえた座標系の処理がなされます。以上説明した6種類の座標系をまとめたのが表>2.1です。

表2.1 コンピュータグラフィックスで扱う座標系

(1)

モデルを考える
世界座標系

平面図形(画像)も3次元図形の特殊な場合として扱う

(1')

世界座標系の範囲

16ビットの整数では(-32768、32767) の範囲

(2)

モデルの局所座標系

いくつかの図形を個別に扱うときに必要
世界座標系をそのまま使うことも多い

(3)

視点(カメラ)座標系

3次元世界座標でカメラの位置とレンズの向きで定義する

(3')

画像取り込みの枠

ファインダ(ウインドウ)の定義

(4)

フィルムの座標系と
投影範囲の寸法

(a)左下を原点として右向きと上向きの座標寸法
(b)左上を原点として右向きと下向きの座標寸法
(c)原点を画像中心として縦横の座標寸法

(5)

作画装置座標系

ディスプレイ、プリンタ、プロッタ、などの座標定義方法は、上とほぼ同じ

(5')

標準化装置座標系

作画装置の種類に関わらず座標面を区間[0,1], [0,1]の範囲に収まるように再定義した座標系

(6)

ビューポート座標系
(画像出力に使う枠)

作画装置座標系の中を部分的に枠を決めてそこを画像原画の表示に使う領域。座標系定義方法は(4)とほぼ同じ

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