2.6 立体図形を考える三次元の世界

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 工業製品の製図では、対象物の形と寸法とを正確に表現できる平行投影法が使われます。製図法の理論を扱う図学はモンジュが始めた画法幾何学ですが、この幾何学では座標系を使いません。その代わり、複数の投影面と対象物との相対的な位置関係を決めて対象物の幾何学的性質を扱います。製図の場合、例えば、水平と垂直との二つの投影面を組にして、平面図と立面図の一組みで対象物を表します。水平と垂直と二つの投影面は空間を四つの領域に分けますので、これに第一角から第四角までの名称が振られます。どの領域に対象物を置くかで投影法に名称がつきますが、実用されるのは第一角法か第三角法です。水平・垂直の二つの投影面が交わる基線で二つの投影面を繋いで平面的に展開すると、平面図と立面図とが縦に並びます。しかし、その位置関係は第一角法と第三角法とでは逆になります。したがって、不注意に投影法を取り違えると、上下反対または左右反対の形状を描くことになります。工業製図では投影法を規格化しているのですが、実は、日米の方式(第三角法)とヨーロッパ方式(第一角法)とが対立していて、世界的な国際標準化機構ISOでも投影法の一本化はできませんでした。

図2.1 図学で使う投影法

 幾何モデルの世界は、仮想現実の世界であって、我々の現実世界との連想の上で存在させます。したがって、あまり現実と遊離した世界を考えることはありません。この節で取り上げる説明は、世界座標の中で、幾何モデルの位置とそれを観察する仮想のカメラの位置との、相対的な位置関係の決め方です。仮想のカメラは、人の眼を擬似的に代表させる装置と言う意味で使います。カメラは投影面を持った装置と考えます。図学でいう投影面は、視点から対象物を通り抜けて向こう側にある面と考えるか、視点から投影面を通り抜けて対象物を見る透視投影面を考えます。コンピュータグラフィックスでは、仮想のカメラの投影面は、普通のカメラでファインダーを通して見るように、視点と対象物との間にあると考えます。カメラの位置を決めるということは、カメラも一つの物体とみて、視点の位置と視線の方向を決めることです。

 普通のカメラで対象物を撮る場合には、座標系・対象物・カメラ(投影面)の位置関係を正しく把握しておく必要があります。普通のカメラで写真を撮ると、手前が大きく、遠くのものは小さく見えます。これを中心投影と言います。対象物との距離を適当に選べば、立体的な図形の透視図は、対象物の実際寸法の大小に関係なく、ある視野の範囲に収まります。しかし逆に、寸法を比較するものを一緒に描きこまないと、モデルの大体の寸法を知ることができません。平行投影も中心投影の特殊な場合と考えることができますので、適当な大きさの図が得られるように尺度を選びます。視野の範囲を決める考え方が、カメラの位置決めとウインドウの決め方に対応します。

グラフィックスモニターの画面では、対象物の方が回転しているのと、視点の方が対象物の周りを回っているのとの区別ができません。工業デザインでは、身の回りにある立体的な形状の性質を扱うことが多いので、対象物を世界座標の原点付近に置いて、視点(カメラ)の方を世界の中で移動させる方が望ましい処理になります。この場合、視線が常に世界座標の原点を狙うように約束しておくと便利です。しかし、地形を含むような広い景観の透視図を描くときには、視線が必ずしも世界座標の原点を狙う向きとは限りませんので、仮想世界の中でカメラの位置決めを理論的に決定する判断が難しくなります。

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