論文概要


論 文 の 内 容 の 要 旨


論文題目 インタラクティブレンダリング法による3次元形状表現に関する研究

氏名   近 藤 邦 雄


本研究の目的は,人が描こうとする質の高い図を,より容易に,より早く描くことができる手法を考案することである.この手法はインタラクティブに図形作画を行うことからインタラクティブレンダリングと呼ぶことにする.これを実現するためには次の3つのことが主な課題となる.まず第一に,人手で熟練技術を必要としたなめらかな濃淡表現を可能にすることが重要である.このエアブラシのかわりとなる濃淡付け手法は2次元的な絵画作画においても有効なものであり,2次元上で自由に濃淡付けを行うことができれば,3次元形状の表現は幾何学的拘束から,より容易なものになると考える.第二に,人が3次元形状を容易に理解できるような情報伝達手段としての濃淡表現法を確立する必要がある.人に対する3次元形状のわかりやすい表現を提案することが本研究の目的の一つである図の質を高めることになる.従来の大量の物理計算による技法とは異なり,3次元形状の特徴強調・省略を行うことにより,表現効果を高くし,人にとってわかりやすい図を作画することを目的とする.また,このような濃淡手法や3次元形状表現をより容易にできることが必要である.良い図を得ること自体は人の仕事であることは当然であり,本研究はその作業を助けるための道具を与えるものであり,人が頭に思い浮かべた図のアイデアがあるならば,すぐに現実化できるようなシステムを作ることが必要である.特に,2次元的処理によって3次元形状を表現するために,作画操作を画面上で行うことができることは重要である.また,3次元形状モデルがあれば,それを利用して3次元形状図を作ることも有効な方法である.このようなシステムが構成されれば,より容易に早く図を描くことが可能となる.

以上の課題を解決するために,始めに,デザイナに対する調査により,レンダリングシステムへの要求の分析,図を描くために必要な機能の分類を行った.そして,質の高いレンダリングを行うための線分の入力,修正方法および,アイデアの段階から計算機を利用して,絵を作成していくための手描き入力方法,および,任意図形の認識のために節点の方法を利用し,節点の情報から数種の図形の認識を行い,作画データを作成する方法を作成した.これによって,手描き入力された各種図形の清書が可能となった.この結果,従来のメニュー方式と手描き入力を併用することによって,アイデアスケッチの段階から計算機を利用でき,作画時間の短縮が実現できた.

 次に,人の作画要求に対応する濃淡付けのための入力と表示技法の作成を考察した.そして,イメージを容易に表示するために濃淡付けの分類を行い,質の高い表現が容易に行えるように計算機を用いた濃淡付け技術として濃度分布曲線法と,基本濃淡付け手法,濃淡混合演算手法,ディザ法を作成した.これらは,小容量メモリで,より高速な濃淡表示が可能であり,組み合わせて用いることによって,人が意図した複雑な濃淡が容易に作成できるようになった.これらの機能を用いた作画例を図1,2に示す.

 第3に,図学的手法のプログラム化による意図した3次元形状図の輪郭作成のために,対話的に表現する技法を実現し,容易に意図した透視図の作画法,手描き透視図から視点推定を行う方法,光線の方向を求める方法を考案した.さらに求められた消点,視点や光線のデータを利用した写真合成,3Dモデルの透視変換,陰影付けの方法を開発した.これらの計算方法は直線の交点や円との交点計算などを利用した単純なものである.この方法を用いれば,手描き透視図から望む構図の視点座標などが容易に得られる.このような2次元処理によって3次元形状の透視図を作成することは,意図した図を作画するために重要な技術である.また,3次元モデルの表現にこのデータを用いることにより,意図した方向の影を描くことができ陰影付けへの入力手段として有効である.手描き透視図をもとにした立体再構成法の基本的考え方を示した.そして,透視図を用いた立体データ入力の有効な方式になる可能性を確かめた.これらの機能を用いた作画例を図3,4に示す.図3は手描き透視図法によって,15分程度で作画したものである.図4はこれをもとに濃淡付けを行ったものである.

 第4に,3次元形状図の濃淡表現のための2次曲面の濃淡パターン化とレンダリングルールの作成を行い,3次元形状の理解を容易にする濃淡表現手法を実現した.この結果,形状理解を容易にする表現を行うための基本原理が明らかになり,面と面の区別や,面形状の性質の一つである曲がり具合の区別,3次元形状の位置・方向の表現をレンダリングルールとして整理できた.これらの手法は機械的に陰影図を作成する方法に比べ,特徴の強調,省略を行い,図を作成するインタラクティブレンダリング法は形状感の理解を助ける有効な手段である.また,パターン分類により,表現する内容と人の理解が一致し,人の形状理解が正確なものとなり,3次元形状の情報伝達を円滑に行うことができる.これらの例を図5,6に示す.

そして,これらの機能をまとめたレンダリングシステムCARP(Computer Aided Rendering for Presentation)を作成し,本研究で提案した各種機能の評価を行った.これらの機能を用いれば,従来の幾何学的な物理計算による統一的な手法に比べ,同程度の表現または,それをうわまわる質の高い表現効果が実現できる.このような研究には類似のものもあるが,3次元形状の表現形式を分析して取り入れているものは少ない.

 本研究によって得られた成果は,1)各種のシステムの基本的道具として有効なものであり,2)作画する図の伝える意味を容易に,そして質高く表現することができるものであり,3)作画に費やす時間,経費の節約に対して,有効なものであり,かつ,4)図形処理システムの高度化に重要な役割を果たすものである.

図1 濃淡図形の作画例

図2 濃淡図形の作画例

図3 手描き透視図法による作画例

図4 濃淡図形の作画例

図5 レンダリングルールの適用例

図6 レンダリングルールの適用例