1. フリーウェア、シェアウェアを利用した3次元モデル、
    アニメーションの製作実験報告書

1999年6月30日  デジタルメディア研究会
(株)小川スプリング製作所 星野伸行


1.1 はじめに

CG映像などマルチメディアコンテンツおよび3DCADなどの需要が高まる中において、近年、廉価版市販3DCGソフトや3DCADが出現しつつあるが、それでも経営体質が弱い中小企業や、ベンチャー企業、個人においては、先端機器の導入や先進技術の修得が困難な状況にある。
一方で、インターネットから入手できるフリーウェアやシェアウェアの中にも市販版に近い(中には一部凌駕する)機能を有したソフトも多く見うけられるようになった。これらのフリーウェアやシェアウェアは単機能ではあるものの、データのやり取りを行うフリーのコンバーターなどのソフトを仲介することにより、数種類のソフト同士を組み合わせて使用することで市販版3DCGソフトや3DCADで作成した作品に近いものを製作することが可能である。さらにこれらのフリーウェアやシエアウエアにはインターネット上において多くの人が、他の人たちが利用しやすいように、機能や特徴について、チュ−トリアル、日本語翻訳マニュアル、自己作品等を紹介しており、それらを参考にするだけでも、これらのソフトを有効利用するための技術を修得することが充分可能である。
コンテンツクリエータ及びコンテンツ利用者の裾野を広げるためには、これらのフリーウェアおよびシェアウエアを初歩的技術の修得に活用することは非常に有効な手段であるように思われる。そこで、自己技術の向上を目標にインターネット上で得た情報をもとに、フリーおよびシェアウエア(機能限定付き)のものをいくつか選定し、それらを使用して3Dモデルおよび、アニメーションの作成を試みると共に、前年度当研究会の課題の一つである光造形用のデータ形式(STL形式)に移行することが可能かどうか試みた。 尚、弊社で使用しているOSがWINDOWS NT4.0であるためフリーウェア等もそれに対応しているものに限り選定した。


1.2 使用機器・OS

本製作に使用した機材構成を以下に示す。

BOX:ATXミドルタワー
CPU:AMD K6−2−400
Chipset: AladdinV
メモリ:128MB SD−RAM(PC−100)
HDD:4GB(U−ATA)
CD−ROM:32倍速 ATAPI
FDD:3.5 inch 2 mode
ビデオカード:3D対応 8MB AGP
サウンドボード:YAMAHA OPL3−SAX
スピーカー:Morex
モニタ:17inch HYUNDAI Delux 7770
OS:WINDOWS NT 4.0
キーボード:109日本語キーボード
マウス:スクロールマウス

1.3 使用したアプリケーションと選定理由



(フリーウェア)


1.3.1 POV-Ray for Window 3.1


http://www.povray.org/
Copyright 1991,1998 by the POV-Ray Team
POVRayとはPersistence of Vision Ray Tracer の略で、3次元の画像をレイトレーシング法により生成するソフトである。これはPOVRayチームによって作成されたフリーウェアで、MS-DOS、Win32、Mac、unixなど多くのプラットホームに対応している。 選定理由は、まずはフリーウェアということ、多くの人が 他の人に利用してもらえるような形でPOV-Rayでのワーク(ソースファイルまでも公開されている)を公開している、開かれた世界を形成しているところであり、さらに、メタボール、光散乱、豊富なテクスチャなど、その強力な表現力にはすばらしいものがある。

1.3.2 sPatch


http://users.aimnet.com/~clifton/spatch/spatch.html
Copyright 1996-1997 by Mike Clifton
clifton@rlspace.com
sPatchはWindows95とNTの為のスプラインベースのモデリングツールである。スプライン 曲線を使って複雑で有機的な形を作り上げる事が出来る。モデルはポリゴンから作られるの では無いので、同じモデルが POV-Rayのようなハイクオリティなレンダラーだけでなく、 VRMLブラウザーで使われるのにも同様に適しているようである。プレビューレンダリングを 作る事が出来るが、sPatchは純粋にシンプルかつ高機能なモデリングツールでありPOV、 Moray、VRML等多くのファイルにエクスポートできるのが特徴である。 自由曲線でのモデリングが容易なこと、POV−Rayとの相性が良いことから使用した。

1.3.3 VideoMaid for Window


http://member.nifty.ne.jp/iwamotokazuki/
Copyright 1998-1999 by
岩本一樹 iwamoto.kazuki@nifty.ne.jp
白星 siro.hino@nifty.ne.jp
Video maidは切り取り、コピー、貼り付け、削除など簡単操作でAVIファイルを 作成するアニメーションエディタである。機能としてはファイルの変換(AVI→BMP、AVI→WAV、BMP→AVI、WAV→AVI)、フレーム数の変更、フレームの反転、再生レート(1秒 あたりのフレーム数)の変更、複数のAVIファイルの連結、プレビュー、プラグインの実行などの機能を有している。またMpeg4形式の出力もできるためインターネットコンテンツのデモなどへの応用も可能である。 他にcmpegなどMS−DOS環境でのツールも存在するが、Window環境での利用 が容易なため、アニメーション作成用として使用してみた。

1.3.4 Breeze Designer for Intel 2.0.8


http://www.imagos.fl.net.au/
Copyright 1992-1996 by Neville Richards
Breeze Designer はオーストラリアのNeville Richards氏作のWindows用の三次元モデリングソフトウェア(モデラー)で, POV-RayのSceneファイルを作成することが出来る。 Breeze Designerでは .cad 形式のファイル以外に 次のような様々なフォーマットを扱うことが出来る。
出力可能なファイル形式
POV-Ray : Persistence of Vision Raytracer (version 2.0 & 3.0) Pixar RenderMAN (RIB),VRML scene (WRL) ,Polyray (version 1.5) , Neutral File Format ,AutoCAD DXF (faces only) , ASCII Data (RAW and PTS format)
読込み可能なファイル形式
Autodesk 3D Studio (3DS),AutoCAD (DXF) ,ComputerScape ASCII Coordinates (RAW and PTS format)
自由曲線作成には難があるが、モデラーとしての機能は十分にあり、データコンバート用にも 使用できる。

1.3.5 Terragen v0.6


http://www-users.york.ac.uk/~mpf103/terragen/welcome.html
Copyright c 1998 by Matt.P. Fairclough
Terragen(テラジェン)は Matt Fairclough 氏が製作している 3D風景ソフトであり、まだ開発中にもかかわらず、景観作成ソフトとしてはその性能 が群を抜いている。自然現象をできるだけ忠実に再現しようとする「ナチュラル」な自然 景観をつくりだせるソフト。今回作成するアニメーションの一部背景に使用した。

1.3.6 CityGen v1.5 - POV City Creator

http://members.tripod.com/~DCieslak/index.html
Copyright c 1998 by Dale Cieslak
dcieslak@yahoo.com
CityGenはPOV−Rayで大都市の高層ビル街を創れる周辺ソフト。 操作は非常に簡単で全方向からの大都市の景観を作成できる。、作成したモデルはPOV-Rayで テクスチャーなども特に設定しなくても良く、レンダリングすることでビルのスタイルをラン ダムに構成する。操作が簡単でモデルはDXF, 3DSで出力することも可能。 本製作におけるアニメーションの一部背景に使用した。

1.3.7 Crossroads3D Version1.0


http://www.europa.com/~keithr/Crossroads/index.html
Copyright c 1995-1998 by Keith Rule
keithr@europa.com
Crossroads3Dはいくつかの3Dファイル形式の間でデータをトランスレートすることができる 新しいWindows用のフリーウエアアプリケーションである。
読込み・出力共に可能なファイル形式 として
3D Studio (3DS)・AutoCAD (DXF)・ POVRay V2.2・ Wavefront (obj) ・ WorldToolkit (nff)・ RAW Triangle・TrueSpace (cob)・VRML (V1.0)があり、
出力のみ可能なファイル形式として、
3DMF ASCII (T3D)・ 3DMF Binary (B3D)・ Direct X ・Megahedron (SMPL) POVRay V3.0・ VRML (V2.0) ・'C' code がある。

(シェアウエア)


1.3.8 Moray V3.0 For Windows


http://www.stmuc.com/moray/index.html
Copyright c 1991-1999 by
SoftTronics, Lutz + Kretzschmar GbR,
Munich, Germany
POVシーン上でのオブジェクトやテクスチャを直感的に配置、設定するモデリングツールとい った感が強いが高機能である。ドイツのWIN用シェアウェアで試用制限30日。

1.3.9 Paint Shop Pro 5.01J (30日間試用版)


http://www.of-world.com/shopping/psp/psp.htm
http://www.jasc.com/
Copyright c 1997-1999
Jasc Software, Inc. All Rights Reserved.
Paint Shop Pro(PSP)は、低価格ながらWINDOWS版のソフト中では非常に強力なラスタ ーフォーマット画像編集プログラムである。 特に海外(アメリカを中心)のWebサイトに ノウハウ・プラグインフィルタ(free)を公開している有効的なページが多数存在しており、大 変使い勝手がよい。この手のソフトにおいて世の中、どうしても「PhotoShop」へ注目が行く が、PSPもレイヤー機能やピクチャ チューブ ブラシによる効果など、かなりの画像処理能力 を有している。
対応フォーマット:BMP, CLP, CUT, DIB, GIF, IFF, IMG, JAS, JIF, JPG, LBM, MAC, MSP, PBM, PCD, PCX, PGM, PIC, PPM, PSD, RAS, RAW, RLE, TGA, TIFF, WPG CDR, CGM, DRW, DXF, GEM, HGL, PIC, WMF, WPG
本製作においてモデルと背景の重ね合わせ処理、背景の特殊効果等に使用した。

1.3.10.Rhinoceros 1.0 Evaluation
    (50回試用版 LHA自己解凍形式)


http://www.rhino3d.co.jp/
Copyright c 1995-97 Robert McNeel
& Associates. All rights reserved.
Rhinoceros(ライノセラス)(R)通称 "Rhino(ライノ)" は、NURBS (Non-Uniform Rational B-Splines)カーブやサーフェイス、ソリッドデータの任意の組み合わせでモデルを作成する ツールであり、強力なスプラインベースのモデルは、3D Studio MAXやSoftimage、 LightWave 3D等のレンダリングやアニメーションに使用することができる。
読込み・出力共に可能なファイル形式 として
IGES・AutoCAD(DGW・DXF)・3D Studio・ Lightwave・Adob Illustrator・ Raw Triangles・Sculptura Files・STL・Agfilesがある。
本製作においてはモデルデータを光造形出力用のSTL形式への変換に使用した。


1.4 制作過程


1.4.1 制作目標

本研究会の平成11年度におけるテーマのひとつ「3次元形状の試作品を数多く作る」より、 モデルは"自由な発想のもの"をとの考えもあったが、個人的に製作技術の習得もまた一つの目標 であることから比較対象物のあるものとし、製作モデルのモチーフは埼玉県にゆかりのもの、製作 ツールは誰もが身近に利用できるソフトを使用することとして、3次元形状の作成、同モデルを使 用したアニメーション製作を課題とした。

1.4.2 製作モデル

埼玉県にゆかりのものの中から、当初、鋳物の置物として、埼玉県のマスコット等にも利用で きるものは何か?との想い付きから「県の花」「県の木」「県の鳥」など、また"さきたま古墳" などから連想できる「神話の登場人物」などをピックアップしてみた。結果、3次元的な特徴を 捕らえる技術習得とアニメーションの創りやすさから「県の鳥」である"シラコバト"あたりが 適当と考え "ハトの飛ぶ姿"を形状化することにした。

1.4.3 製作ツール

誰もが身近に利用できるソフトを使用するという課題からインターネット上で"3次元グラフィ ック"を検索していたところ、
「得する! 学べる! 象がのっても壊れない 3D graphics 初歩の初歩」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~yasu-non/main.htm
yasu-non@msh.biglobe.ne.jp
というサイトを見つけた。その中に
「絶対ためになる、刺激されるPOV-Ray厳選リンク集」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~yasu-non/link/index.htm
というPOV-Rayというソフト関係のリンク集があり、リンクされたページをたどってみたとこ ろフリーウエアであるにも関わらずPOV-Rayというソフトの表現力の高さに驚きを感じた。 また、世界中の大勢の人たちがPOV-Rayを使用し、素晴らしい作品を発表しているほか、英語 版のマニュアルの日本語翻訳や、作品の作り方をわかりやすく説明したチュ−トリアルのページ が掲載されているなど、さらにPOV-RayのSceneの中で利用できるオブジェクト等のインクル ードファイルやプラグインソフトの多さなどPOV-Rayを取り巻く大規模なクリエータの環に 大きな発展性を感じた。 そこでPOV−Rayを使用ソフトの軸に、前述したデータを共有できるモデラー等を使用して、3 次元形状モデルを作成し、アニメーション製作を行うこととした。

1.4.4 モデル製作

1.4.4.1 POV−Rayにおけるモデル作成

始めPOV-Rayの言語よるモデル作成を試みた。 POV-Rayでモデルを作成する場合、要素の描 画をプログラム形式で記述しなければならず、多少のプログラムの知識は必要であり、CADと違 いレンダリングするまで形状の確認が出来ないなど、使いこなすにはかなり熟練を要するように 思えた。 本製作の中でハトの作成で難題となるのは翼の部分をどう創るかであった。いくつかの サイトを参考に見て回ったところ、運良く天使の翼を掲示しているサイトを見つけた。製作方法 としては sphere(球体)を平坦に細長く変形させた羽を blob(metaball)命令を使用して、角度を少しづづ変えて組み合わせて翼にしているものであった(左図参照)。このモデルを参考にハトの翼を作成することにした。天使の羽の形状に比べてハトの羽は長手方向を縦とした場合横幅の比率が大きいため、羽ひとつひとつを幅広にするとともに羽の角度、変位を調整し、付け根から先端までの翼の長さを短くしてコンパクトにまとめた(下図)。


Angel wings for Pov-ray 3.1 & higher
(c) 1999 Gilles Tran tran@inapg.inra.fr
次に本体部分の作成に入る段階になり一つ問題が発生した。モデルは 最終的には光造形モデルにするためにSTL形式のデータに変換しな ければならない。フリーのコンバーターとしてダウンロードしておい たCrossroads3DではPOV-Ray2.2のデータの読込みは可能なものの、POV-Ray3.0以上のデー タの読込みは不可能であるため、使用しているPOV-Ray3.1のモデルを他のモデラーにコンバー トすることが出来ない。他にWcvt2povも調べてみたがPOV-Ray2.2への出力は可能であるが、 POV-Ray3.0以上は未対応であった。以上の点からPOV-RayはレンダリングおよびScene作成に は有効であるが、モデラーとしては言語形式で要素を指定しなければならないなど、初心者やCAD を主に使用している人にとっては扱いにくく修得までに時間を要する。そこで、モデルの製作には 別のモデラーを使用することにし、POV-Rayはアニメーション用のSceneファイル作成専用に扱 うこととした。尚、後でわかったことであるが、POV-Rayで作成したblobの翼はモデラーから取 り込んだパッチ形式のものよりかなりデータが軽いためレンダリング時間を短縮できることから、 アニメーション作成時には使用することとした。

1.4.4.2 Breeze Designer によるモデル作成

Breeze Designerは多くのPOV-Ray関係のサイトでPOV-Rayとの相性が良いと取り上げられて いるフリーウエアである。使用してみた感想として設定されているObjectを組み合わせてロボッ ト形状のようなモデルは作りやすいが、Objectを変形させるなどの機能は乏しく自由曲線形状は 作成困難であり、慣れないとマウスをクリックする度にObjectをコピーしてしまうなど操作性も 今一つであった。慣れるまで翼部分よりハトの胴体モデルを先に作成しようと試みたが、思った ように丸みが出せず(熟練してObject を多用しBlobなどの機能を使用し時間をかければ可能か もしれないがBlobの使用方法が不明?)、生き物などの自由曲 面を多く必要とするモデルの製作は不向きであることがわかっ た。試しにPOV-Rayに取り込んだ画像を右図に示す。胴体部 分の作りが雑なため極端な例ではあるが、POV-RayでBlobで 作成した自然な形状の翼と組み合わせるには無理があるため、 自由曲線の使用できるフリーのモデラーを探すこととした。 尚、Morayも同様に試用してみた。シェアウエアなだけあり機 能および操作性はBreeze Designerより優れ、Bezier Patchなど自由面を使用できるが、多機 能なため熟練には時間を要し、やはり自由曲線の機能が乏しいことから最終的にsPatchによる モデル製作に切り替えた。

  1.4.4.3 sPatchによるモデル作成

sPatch は比較的単機能ながら前述している通りスプライン曲線による自由な曲線が作れるモデ ラーである。POV-Rayへのデータ出力も可能なため、多くのサイトでsPatchでモデリングした ものをPOV-Rayでレンダリングした作品も数多く見うけられる。単機能ではあるがレイヤー等を うまく利用すればかなりのモデルを作成することも可能なようである。実際使用してみて初心者 でも、比較的短時間である程度のものは作れることがわかった。胴体は片側の輪郭を縦に描き、 それをLathe tool を使用して回転させ立体形状を作った後(右図)、 要素をつまんで整形し作成した。羽や尾は同様にすり棒状の立体を平 たく潰したものをClone toolとScale toolを使用し大きさを変えて複 数の羽を作り、Rotate toolで角度を変えて重ねあわせて作成した。 レンダリングし易いように胴体、翼、尾、目、足、クチバシ、腿は 各レイヤーに分けてモデリングしてみた。少機能ではあるがモデルを 作成するときの必要な機能は十分備わっており、あとはクリエーター の工夫次第といった感じを受けた。日々短時間にわけ作業したため正確ではないが製作には正味8 時間程度要した。

レイヤー別編集画面完成図



1.4.5 モデルデータの変換

sPatchから移行できるデータ形式はDXF・Moray V3.0・POV-Ray・Render Man・VRML 2.0 である。目的の一つとしては光造形用のSTL形式まで変換を行いたいため、RhinoCeros に取り込 める形式であるDXF形式に変換を試みた。DXFへの変換は3タイプあり、Low(8polys/patch)・ Medium(32polys/patch)・High(98polys/patch)の全てのタイプで変換してみた、Highになるほど データ量が増え変換時間はかかったが変換は難なく終了した。またRhinoCerosへの読込み時間 およびSYL形式への変換であるが、HighタイプのデータはRhinoCerosに読込む際、28分程 所要したものの Lowタイプのデータでは1分程度で 終了した。STL形式への出力は要素数を少なくする 意味でも、Lowタイプのデータを使用することが適 当かと思われる(右図 Lowタイプのモデル)。 またRhinoCerosからSTL形式への変換時間はわず かであった。

今回使用したハードでの各所要時間を以下に示す。

  High data  データ量  6.1MB
  sPtch → DXF    出力所要時間    約 3分
  DXF → PhinoCeros  読込み所要時間    約28分
  PhinoCeros → STL   出力所要時間    約 1分

  Low data  データ量  4984KB
  sPtch → DXF    出力所要時間    1分未満
  DXF → PhinoCeros  読込み所要時間    約1分
  PhinoCeros → STL   出力所要時間    1分未満

尚、参考までにMorayにデータ出力を試みたところ、Layerの中のPatch数が多いため分割して ください、とのエラーメッセージが出てしまい。そのままでは出力ができなかった。そこでモデル の左右対称の部分の片方をレイヤーを変えて移動するなど処理することで、パーツごとに出力して Moray上でmerge modelで取り込み組合わせた。
次にもう一つの目的であるアニメーション作成用にPOV-Rayへのデータ変換を行った。(4)A. の章で前述したとおり、レンダリング時間の短縮を考慮し、翼はPOV-Rayで作成したものを使用す ることとし、出力するモデルは翼を除いた胴体(目、クチバシ)、尾、足部分とした。変換時間は数 秒程度で終了し、デ−タはPOV-Rayの中でレイヤーごとにbicubic_patchコードに変換され取り込 まれることがわかった。
また、先におこなったMorayのデータもMorayからPOV-Rayを直接呼び出しScene(シーン) を構築できるようであるが、今回はPOV-Ray中のbicubic_patchのコードモデルを使用することで Morayの試用にまで至らなかった。



1.4.6 アニメーションの作成

大まかなアニメーション作成手順として以下の方法を用いた。
A.POV-Rayでハトのモデルに動きをつけ、はばたく様子をパターン化する。


B.POV-Rayで背景画像を設定しAと組み合わせSceneを構成する。

C.POV-Rayでカメラ位置、光源を操作し、BのSceneに遠近感、陰影等の効果を演出したCG を作成する。

D.Cで作成したCGの他、PaintShopなど他のイメージソフトを使用し、Aのパターンと 背景等を合成する。又は、特殊フィルタ処理でCGを加工し効果を施す。

E.少しづつ動きを変えたCGを作り、Vmaidで編集してアニメーションファイル(AVI形式) を作成する。

上記のよう取り組んだ詳細について次頁に記す。

A.POV-Rayでハトのモデルに動きをつけ、はばたく様子をパターン化する。
最初にPOV-Rayに取り込んだハトの胴体モデルとblobの翼のモデルの組合せる作業から始めた。
a.基本的なカメラ位置と被写体の方向、光源位置の設定を行なった。これは取り込んだモデル の配置をレンダリングして確認するために必要であった。

  例.カメラ位置と被写体の方向、光源位置のソースコード
   camera {
      location <0, 0, -50>
      look_at <-0, 0, -0>
  }
  // Light
  light_source {<-1000, 1000, -1000> color White }
  light_source {<1000, 1000, -1000> color White }

b.SPatchから取り込んだレイヤーごとのbicubic_patchのソースコードをunionコードでま とめBody(胴体部分)として定義した。これは動きをつけるため胴体部分と翼部分を分けてお く必要があるためである。

  例.Body部分のソースコード
  #declare Body=union {
  union {
      bicubic_patch {
      type 1
      flatness 0
      u_steps 3
      v_steps 3
      <-0.098, 1.618, 0.000> <-0.098, 1.618, -0.025> <-0.084, 1.611, -0.063> <-0.065, 1.618, -0.078>
      <-0.152, 1.558, -0.021> <-0.152, 1.558, -0.046> <-0.115, 1.552, -0.109> <-0.097, 1.559, -0.125>
       ・・・・ 中 略 ・・・・
      }
  }

c.作成済みの翼の右片方のblobコードモデルをファイルに読み込みRightWing(右羽翼)と して定義した。片翼づつ定義することで左右の翼の動きを分けて制御するのが目的である。
  例.RightWing 部分のソースコード(注.Wing部分のコードは 参考にGilles Tran氏のコードを引用)

  #declare RightWing=blob{
  threshold 0.3
      sphere { <0, 0, 0>, StrengthVal, RadiusVal scale <2,13,0.2> translate y*13 rotate z*-2 rotate y*1}
      sphere { <0, 0, 0>, StrengthVal, RadiusVal scale <1.5,12,0.2> translate y*12 rotate z*-10 rotate y*3}
      ・・・・ 中 略 ・・・・
      }
  }

d.cで定義したRightWingをZ軸で反転させたobjectを生成しLeftWingとして定義する。
テクスチャーには白のbumpsマップを指定。

  例.LeftWing 部分のソースコード
  #declare LeftWing=object{RightWing scale <1,1,-1>}
  // Texture
  #declare txtWing=texture{
      pigment{White}
      normal{bumps 0.1 scale 0.5}
      finish{ambient 0.2 diffuse 0.8 specular 1 roughness 0.1}
  }

e. 両翼をunionコードでまとめて定義し、Wingsのtranslate と rotateの値を変えることで 翼の位置と角度を変更出来る。Body側も同様に設定し、翼との位置を合わせた。

  例.Wings 部分のソースコード
  #declare Wings=union{
      object{LeftWing scale <1.5,1,1> translate y*2.5 rotate x*-40}
      object{RightWing scale <1.5,1,1> translate y*2.5 rotate x*40}
      translate y*-4
      texture{txtWing}
  }
  object{Wings rotate y*45}
  object{Body scale <5,5.5,4.5> rotate<85,-45,0> translate<0,-4,0>}

位置の合っていないモデル   .

f.以上のように設定することで翼の角度を調節し、ハトのはばたきを表現することが可能であ る。また、POV-RayのAnimation機能を利用し、カメラ座標や翼のtranslate や rotate部に clockを設定し、Povray.iniやQuickres.iniに設定を加えることで、動きのあるSceneを連続 して生成することが可能であることがわかった。

  例.Animation設定ヵ所のソースコード
  // animation set
  #declare Wings=
  union{
      object{LeftWing scale <1.5,1,1> translate y*3 rotate }
      object{RightWing scale <1.5,1,1> translate y*3 rotate }
      translate<0,-4,0>
      texture{txtWing}
  }

以上の方法でハトのモデルを構成したが、翼と胴体の位置あわせには微調整をひとつひとつレン ダリングして確認しなければならず、多少時間を要した。またbone(骨格)で接合されてないの で翼の角度によっては不自然な構図となり、翼を胴体よりカメラ側に寄せたり、胴体の位置を翼 の位置より多少上に配置し、Sceneを撮るなどの工夫が必要であった。

B.POV-Rayで背景画像を設定しAと組み合わせSceneを構成する。
通常POV-Rayではsky.incなどのインクルードファイルを指定し、sky_sphereコードで空の 背景をテクスチャー等で表現するが、Gif形式など外部イメージを取り込み背景として貼り付け ることも出来る。TerragenやCityGenなどの景観作成ソフトやPaintShopなどイメージソフト であらかじめ作成していた背景をPOV-Rayに取り込みSceneの作成を試みた。

a.Terragenで作成したものをPaintShopでGif形式のデータに変換し、sky_sphereコード でPOV-Rayに貼り付けたところ、画像のドットが荒くなる現象がおきた。背景によっては 特殊効果的に利用することも可能であるが、自然に表示するためには今ひとつ工夫を要する。

Terragenで作成した背景POV-Rayに取り込んだ背景

そこで、Terragenで作成した背景画像はDのイメージソフトでの加工し効果を施すことで、利用することとした。

b.CityGenは元々POV-Ray用に都市景観を作成するアプリケーションであるため、背景マップ より、boxコードなどのObjectとしてPOV-Rayに取り込める。そのため、カメラを介してビ ル 間を移動するSceneを作成することも可能である。テクスチャーは自動的に生成されるため、 都市を景観として使用するSceneではかなり威力を発揮した。

c.PaintShopなどイメージソフトで作成した背景画像もaと同様、期待したような背景として の取り込みは出来なかった。しかし、幻想的な背景を演出するには面白い効果を引き出すこと が出来た。以下の背景はPaintShopでFilter等を使用して作成した背景をPOV-Rayに取り込 んで作成したSceneである。

C.POV-Rayでカメラ位置、光源を操作し、BのSceneに遠近感、陰影等の効果を演出したCG を作成する。以下の画像のようにカメラ配置を遠くするなどの処理で、ハトが遠のくSceneを 作成することが出来る。このような道具を始めて使い出すと、どうしてもあらゆる角度から被 写体を構図を撮りたくなるが、アニメーションがかなり出来上がった頃、拝見したCGの教材に 素人が陥りやすい表現方法だと書かれており、映像技術の難しさを再確認させられた。

D.Cで作成したCGの他、PaintShopなど他のイメージソフトを使用し、Aのパターンと背景等 を合成する。又は、特殊フィルタ処理でCGを加工し効果を施す。 POV-Rayだけで、意図したSceneを全て構築するのは難しい。そこで、イメージソフトを使用 し、ハトと背景を組合せる作業が必要となった。PaintShopにはBackground Color(背景色) を透過色として貼り付ける機能がありそれを利用して、ハトと背景を合成してみた。始め、ハ トの 背景色を水色に設定しておいた。この時の失敗であるが、後から合成しようとして、取り 込んだハトのポーズの全画像をJpeg形式で保存したところ、貼り付ける際になって水色の輪郭 が残ってしまい、全部無駄になってしまった。Jpeg形式で保存したため圧縮の関係から、ハト と背景の隣接部分の色に階調を生じたためと思われた。以降、BMP形式での保存を心がけるこ ととした。また、今回のアニメーションには使用しなかったがPaintShopのPlug In Filter等 を使用し背景の加工を試み、面白い効果を表現できることが確認できた。

元の画像PlugIn Filterを使用した効果

E.少しづつ動きを変えたCGを作り、Vmaidで編集してアニメーションファイル(AVI形式) を作成する。 上記のような方法で作成したCGをVmaidを使用してAVI形式のアニメーションを作成した。 VmaidへはPaintShopからCGをカット・アンド・ペーストを利用して1枚1枚フレームとし て貼り付け動作を確認しながらビデオストリームの構成をおこなえるため、非常に扱いやすい。 また今回は試作しながったが、WAV形式のオーディオの編集もおこなえるようである。 ビデオストリームの構成を行い、形式を指定して保存するだけで比較的楽にAVIファイルの 作成をおこなうことができた。 機能としては単機能ではあるものの、AVIファイル間の結合 。陰影、重ねあわせなどのPlugInの特殊効果も利用できるなど応用も利く。 本来1秒間に16フレーム程度の枚数が適当であるが、今回は複数のSceneを製作したため、 時間の関係上1秒間に4フレームから6フレームで製作し動きを確認した。


1.5 まとめ

本製作を通じて、フリーウェアおよびシェアウエアを活用することで、3次元モデルの製作技術の 修得はおろか、能力のあるクリエータであればかなりの高度な作品を制作することが可能であること を確認した。 製作の流れとしては、生物モデル製作にはsPatchなど自由曲線を生成できるソフト を、メカニックな形状はBreezeDesignerなどのモデラーを使用て作成し、POV-Rayでレンダリング するといった作業工程が有効である。またPOV-Ray環境のフリーな外部インクルードファイル等を 有効に活用することで、背景などの製作時間を大幅短縮出来ることも確認できた。光造形用のSTL ファイルへの移行はRhinoCerosを介さないとおこなえないものの、DXF形式には変換がおこなえる ため、このようなソフトで作成したモデルの二次的利用は可能である。 しかしアニメーションなどの製作時間を考慮した場合、多機能な3DCG作成ソフトを使用した場合 よりはるかに効率が悪いようである。ただ、使用勝手は単機能なため簡単で初心者がマルチメディア 入門用に使用してみるのには有効である。またこれらのソフトは多機能な3DCG作成ソフトと組み 合わせて利用することで煩雑な作業の一部を軽減できる可能性がある。 初歩的技術修得において は、今回取り上げなかったがDOGAシリーズなども試してみる価値があるようである。 今後の製作目標としては、このようなソフトを活用 し自社製品等の広告作品をホームページ等で発表し 有効に活用したい。またLightWave3D等、より高 機能なソフトを使用して使用勝手の違いを比較する など、マルチメディア作品の製作を介して技術の向 上につとめたい。