1.3 言葉を使った形状の表現

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 平面的な図・立体的な形の情報(これを形状のデータと言います)を正確に第三者に伝える工学的な方法は、幾何学的な原理を応用して図面に表し、寸法数値を書き込みます。図を使わないで、形状の特徴を言葉だけで伝えようとしても、非常に単純な図形だけしか表現できません。「正三角形・直角二等辺三角形・正方形・正立方体・円柱」などの用語がそうです。寸法を伝える場合にも固有の寸法表現を使います。「一辺30cmの正方形」「直径10cm、高さ30cmの円錐」などの言い方がそうです。「コーヒーカップのような」「ひょうたんの形をした」など、形状の特徴を説明する言い方もありますが、正確な形状の伝達には不十分です。コンピュータに正確な形状データを教えて、それを基に作図したり(CAD)、また形状の製作(CAM: computer aided manufacturing)までもできるようにしたい、と考えます。このとき、どのような言語と形状データとを準備すればよいでしょうか。幾何モデリングとは、CAD/CAMと密接に関連を持った技術ですが、その出発点は形状をどのようにして言語で言い表すかの設計問題となります。

 コンピュータに形状のデータを教えるときに使う最も原始的な言語は、平面図形作図用のコマンドです。座標などのデータも言語の一部と考えます。なぜかと言えば、コンピュータは人間のように図を読み取って、それから立体的なデータに組み立てる感性がないからです。作図用のコマンドは、基本的には線を描く処理の組合せで図形を描かせます。曲線は、全体が滑らかに見えるように中間の点の座標を求め、それを順につないだ多角形で近似させます。ちょっと複雑な図形となると大量の座標データを準備しなければなりません。座標データを人が準備するのは大変ですので、この作業を便利にする数学的な方法が工夫されています。さらに、紙の上に図を描くように、モニターの画面を使って製図ができるような工夫が考えられました。これを自動作画または自動製図と呼びました。MacDrawなどのソフトウェアがその走りです。製図の場合には、線の書き順を意識する必要があまりありませんが、平面的な対象物の形状データをコンピュータに教えるときには、例えば、外周の図形を一周するように座標データを揃える必要があります。このデータは、例えば、鉄板を任意の形状にガス切断で切り出したり、穴空けの位置と順番とを指定する場合などに応用されます。

 立体形状を表す製図法は、原則として三面図を使います。平面図形の作図に使うコマンドを使って三面図を描いても、このコマンドは立体図形を直接に表現する言語には使えません。逆に、最初から立体的な形状をデータとして準備しておけば、三面図のような投影図は簡単にできます。そこで、例えば「一辺30cmの立方体」という言葉でコンピュータにデータを教えれば、任意の向きの投影図が描けるようにしよう、というのがソリッドモデリングの言語設計の考え方です。モデルを作る手順は、実際に品物の材料を切断・穴空け・溶接などの機械加工をさせるような言語を考えると使い易くなります。とは言っても、自動車のボディーの形状のような複雑な形状を言葉だけで言い表すことは不可能ですので、形状データを準備する方法も平行して工夫されています。工業デザインでは、実物大または縮尺の模型を作って、それを立体写真に写して形状データに加工する方法も採られます。ある程度の基本的な形状データがコンピュータに構築できれば、それらを組み合わせたり、移動させたり、加工したりして、コンピュータグラフィックスで観察できるようにできます。この作業も言語で指示するようにします。これらの処理の全体がソリッドモデリングと呼ばれます。

 コンピュータに形状のデータを教えるときに最も面倒な作業は、点の座標・長さ・角度などの寸法を数値で指示しなければならないことです。例えば「一辺30cmの立方体」という表現だけではデータが不十分で、それを世界座標のどこに置くかのデータも必要になります。我々の現実世界で、机の上で積み木を組み合わせて立体的な造形を試すとき、幾何学の知識をほとんど必要としません。したがって、コンピュータグラフィックスでモデルをモニターしながら、マウスなどを使ってモデルを移動させたり回転させたりすることができると感覚的に理解し易くなります。これは言語を使ったコンピュータの利用法(character user interface: CUI)に対してGUI(graphical user interface)と呼ばれています。コンピュータのユーザが利用する場合にはGUIの環境をさらに進めて、立体視をしながら仮想現実の世界(virtual reality)でモデリング処理をすることも工夫されています。この場合であっても、コンピュータが内部で利用するためには、コマンドと数値データとに直して処理しなければなりません。この処理は、作図と逆の処理になり、一般に座標読取り(デジタイザ)の機能と言います。

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