3.5 線分と辺との区別

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 幾何学でいう面は捉えどころのない概念ですが、面を辺で区切って多角形の領域(region)に限定することで現実の図形に対応できるようになります。多面体(polyhedron)は、多角形の表面(face)で構成しますが、この表面は辺(edge)で囲まれていると言います。英語では面・表面を区別する用語にplane、face、線・線分・辺の用語にline、line segment、edgeと使い分けることができます。つまり、線分は幾何学的な要素ですが、辺は、図形の要素です。この区別は紛らわしいのですが、次のような例を考えるとよいでしょう。

 三角形と言う図形は、三つの辺で構成します。辺は三角形の内外の領域を区別する図形要素です。一つの頂点から対辺に垂線を降ろすとき、この垂線は図形の要素ではありませんから線分です。これは三角形の頂点が始点で、対辺との交点が終点になっているので、言葉で「垂線を下ろす」と言い表すことが向きを定義します。定規とコンパスとを使って作図をして垂線を求めるとき、補助線を考えますが、これは長さを特定しませんので直線です。三角形が鈍角三角形であると、垂線が三角形の辺の中に落ちなくて、辺を含むように延長した直線との交点で求めなければならないことが起こります。

 初等幾何学の参考書には、直線と線分とに加えて、半直線を定義していることがあります。垂線を求める補助線は頂点から出発した半直線の性質があります。実用的な数値計算を扱うときには、直線と線分との二種類にしておくことで不便を感じないでしょう。辺と線分との位相幾何学的な定義は次の項目です。

(1) 線分は一対の点(頂点)で与え、二つの点を通る直線をこの区間で有限の長さに区切った直線の一部分である。線分は、3次元の場合でも2次元の場合でも定義できる。

(2) 線分は向きを持たせる。そのため、2頂点にはその線分の始点であるか終点であるかの属性を持たせる。この属性は、線分ごとに決めるので、同じ頂点が別の線分の要素であっても、同じ属性を持つとは限らない。

(3) 線分は、面(3次元)もしくは領域(2次元)の境界に使うことがある。このときに、線分のことを辺と呼ぶ。辺は面や領域を左右に分ける目的にも使う。ここで左右という区別には、辺を始点から終点に向かう向きに対して言い、左側を正とする。多面体において、二つの表面の境界に使う辺では、左右の表面が表同士で接する。メビウスの輪を構成する表面は、この接続がどこかで矛盾した接続を起こす例である。

(4) 辺の両側に必ずしも有意の領域があるとは限らない。例えば、地図をモデル化するとき、海側の領域は存在しないとする。また、両側とも領域が存在しない辺は骨組み構造と考えることもあって、辺そのものも実体のある図形であると見なす。

(5) 辺の向きの定義は、領域の側から見て相対的に定義することがある。領域を定義するときは、その領域を左に見るように辺を辿るのを辺の正の向きとする。

(6) 領域を左に見るように辺を辿って一周して元に戻る、その回転が左回り(反時計回り)であるときに、領域の外形を定めることができる。右回りであるときは、その領域に関しては穴を定義することができる。

 辺の定義は、幾何モデリングのときに必要になる概念です。この場合、辺は、始点終点の頂点データの他に、面との関係、隣接する辺との関係など、トポロジー(位相幾何学)的な接続条件を含めなければなりません。

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