「第4章 幾何で使う変換行列の数学」のまとめ
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- 4.1 変換行列とは
- 3×4の変換行列は、3×3の正方行列Tと一つのベクトルdをまとめたデータである。図形の変換と、座標系の定義として利用する。
- 変換操作の数学手順は、まず原点を中心として行列Tで拡大・縮小・回転・変形の変換をさせた後、dで平行移動をさせる。
- 座標系の定義として考える場合は、座標軸の向きと長さを決める三つのベクトルと、原点の場所を示す位置ベクトルとを集めたものとする。
- 変換があれば、その逆変換がある。座標系の定義の場合は、どちらの世界に属して相手を見るかの世界観を変えることである。
- 逆変換には、行列Tの逆行列を求める計算を必要とする。
- 4.2 立体図形の拡大・縮小
- 原点を中心とした図形の拡大・縮小を扱う行列の一般的な式は、互いに直交する三つのベクトルと、その方向の倍率とで与えられる(4.14)。
- 行列式|T| は、立体図形の体積拡大、もしくは縮小率を与える。符号が負であれば、鏡に写った像のように、左右が反転する変換を伴う。
- 拡大率λの数値のうち、いずれかが0 であるとき、その方向の厚みが0 となり、平面的に押しつぶされたものになる。
- 三つのλがすべて等しいとき、図形は元の図形が相似的に拡大または縮小される。これらの符号が異なれば、|T|の符号によって、左右反転が生じる。
- 変換の中心が別の座標pにあれば、原点についての変換後、d=-Tp+pの平行移動をさせる(4.15)。
- 4.3 変形を伴わない回転
- 剛体としての回転行列は、互いに直行する右手系の三つの単位ベクトル(a、b、c )を縦ベクトルとする行列である。
- 回転は、最初の座標軸を表すベクトル(i、j、k )を(a、b、c )の向きに変えるような変換である。
- 回転行列の二項積表現はT=ai+bj+ckである(4.17)。
- 座標軸(z、y、x)回りの回転行列は、式(4.18)〜(4.20) にまとめた。
- 任意の向きの回転を与える変換行列の実用式は、世界座標のx、y、z軸回りに、この順に回転させる(4.21) 。これをオイラー回転と言う。
- 原点を通る任意の軸を回転軸とする回転は、式(4.22) である。
- 4.4 座標系と変換との組合せ
- 変換を二回続けること、座標系を移動・回転させること、入れ子になった間接座標系を世界座標で表すこと、以上の三つの処理は、式の表現は全く同じである。
- カメラで被写体をねらう方法は、パン・スイング・ティルトの操作で行う。これは自分の座標系で定義した変換行列で自分自身を変換する処理であって、回転軸はz、y、x順である。この変換行列はオイラーの回転行列(4.21) と同じになる。
- 4.5 回転を与える変換行列の解析
- 剛体としての回転を与える行列の逆行列は、Tの転置行列 に等しい。
- 回転行列が与えられたとき、式(4.40) 、(4.41) は回転軸の方向を示すベクトルと回転角度の計算式である。
- オイラー回転行列に合わせるように、各座標軸回りの回転角度α、β、γを求める式は、(4.43)〜(4.45)にまとめた。三つの角度は一意に決まるのではなく、例えば
cosβの符号を正負いずれに決めてもよい選択の自由度がある。
- 回転軸が原点以外の点pを通る場合、pを求める式は(4.47)である。
- 4.6 行列の座標変換
- ある行列を座標変換するときは、座標系を表す行列の逆変換行列が必要になる。もし座標系の座標軸を表す三つのベクトルが互いに直交した右手系の単位行列であれば、その転置行列が逆行列に等しい。もしこの条件が成り立たない場合には、代数的な方法で逆行列を求めなければならない。
- 4.7 対称行列の固有値解析
- 対称行列は、幾何学的に見れば、互いに直交するベクトル方向に拡大・縮小をさせる変換行列である。固有値解析とは、このベクトルの方向と、拡大・縮小の倍率を求めることである。
- 対称行列の固有値解析は、その行列に座標変換を施して、対角行列に変換することである。新しい座標系の座標軸を表すベクトルが固有ベクトル、変換された対角ベクトルの値が固有値である。幾何学的には固有値には等根、負の数、0の場合も有り得る。
- 新しい座標系の座標軸を決めるベクトルを選ぶとき、なるべく、元の座標軸に近い向きで、最小の回転で得られるようにするのがよい。単に代数的に固有値を計算するのでは、幾何学的な意味付けができなくなる。
- 対称行列の固有値解析の基本的な方法は、2次の行列の解析にある。2次の固有値解析は、モール円を使った説明が理解しやすい。Jacobi法とは、2次の固有値解析を繰り返す方法である。
- 4.8 一般的な行列の解析
- 一般的な3×3行列が行う図形の変換は、三つの主軸方向への拡大・縮小と、図形の回転とを行わせる。この行列を二項積で表すとき、対称行列に回転変換を行わせるという形の式(4.76)で表すことができる。
- 行列の構成は、三つの固有値(λ1、λ2、λ3) 、二組の互いに直交する右手系の単位ベクトル(a、b、c )と(u、v、w )である。これらを求める方法は、対称行列の固有値解析を応用する。
- 三つの固有値 (λ1、λ2、λ3)がすべて1に等しいときの行列が、回転を与える行列である。
- ベクトル(a、b、c )と(u、v、w )とが等しいときが、対称行列である。
- 逆行列は、式(4.84) で与えられる。そのとき、固有値の逆数が実用の範囲で求められないときには、逆行列を計算できない。
- 4.9 解析学との接点
- 対称な行列の固有値と固有ベクトルの解析では、幾何で扱うベクトルと行列の次元数3を一般化したn次元に拡張して考えている。
- nの値が充分に大きくなると、幾何学的なn次元空間を考えるよりも、解析的な関数で扱う方が合理的になる。この場合、ベクトルは関数f(s)、g(s)に対応し、行列はT(s,t)のような2変数の関数に対応させることができる。
- 変換と同質の表現式は積分方程式の形で表される。このときの関数T(s,t)はグリーン関数と呼ぶことがある。
- 単位行列は、デルタ関数に対応して考えることができる。
- 互いに直交するベクトルは、直交関数列に対応させて考えることができる。
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